それまでのおばあちゃんの状態は?
歩くのに支障が出たのは、急に起きたわけではありません。ショルダーバッグを決まった肩だけに掛けて姿勢が徐々に崩れ、歩くのが次第に億劫になりました。駅から家への坂を上がりきるところで転び、手を突けずに顔面をアスファルトで強打したことがありました。
やがて歩く時には杖が手放せない状態になりました。杖を使い始めると、杖に頼るために背中がますます丸まり、身体中に力を入れるので関節の動く範囲が狭くなるばかりでした。
入れ歯を作り替えるために介護タクシーを頼み、歯医者に連れて行った時のことです。2階への狭い階段は上がれないので負ぶろうと背中に乗せました。
負われたら両足は曲げて膝を支えてもらうのが普通ですが、何故か両足を突っ張ったまま全然曲げる気配がありません。歩く時は転ばないようにと、常に脚に力を入れ続けてる状態でした。
おばあちゃんは70歳を越えてもバドミントンをしていました。それ故、運動していたのに何故身体が動かなくなったの、とよく聞かれました。
仲間と借りた体育館で時間ぎりぎりまで汗を流して、終わればちょっと食事かお茶を楽しみ、家に帰って家事に追われて・・という流れだったと思います。
今、これを読んで頂いているあなたは、スポーツの後で筋肉のケアをされてますか?準備体操はしても、整備体操やマッサージは殆ど誰もしていないでしょう。
おばあちゃんも使った筋肉を「緩める」ことは殆ど意識していなかったので、徐々に筋肉が固くなり、関節の動きを妨げる状態になって初めて気付いたのだろう、と思います。
もしあなたがまだ現役でスポーツを楽しまれているなら、この「骨ストレッチ」と「ゆる体操」で筋肉を緩ませるケアをくれぐれも忘れないで下さい。直後でなくても、数日に分けても構いません。
高岡英夫氏の「寝ゆる黄金三点セット」のひとつ、ひざコゾコゾ体操は誰でも直ぐにできますね。ふくらはぎの全て、アキレス腱からから膝の直ぐ近くまで何処も柔らかくて痛くも何ともない、という人は稀ではないでしょうか。
(補足)ソファーから床へ移動させた訳
木製ソファーに座った状態から床に仰向けになるまでおばあちゃん自身に練習させた狙いは、股関節、肩関節周りの筋肉を少しでも緩ませて、普通に動く感覚を回復させることでした。床に手を突く時に前のめりに倒れないよう、私が前に立って備えていましたが、二ヶ月位で必要なくなりました。
半年ほど経った頃、床に突いた手を前に移動させる途中で座面からお尻が外れ、正座崩れのような形で床に座り込みました。曲がった膝が痛いと叫ぶ・・ことは全くなく、私もわざとゆっくり四つん這いに誘導しました。
骨の役割を説く塾を主催されてる勇崎賀雄氏の著書「50歳からは筋トレしてはいけない」に、“正座出来れば歩けるようになる”と記された言葉がありましたので、これで一歩前進したと確信しました。
それまではレントゲン写真を見た医者のコメントを鵜吞みにして、膝を深く曲げようともしませんでした。偶然も働いて尻を足の間に落とした正座の恰好になり、痛みも無かったので、おばあちゃん自身の意識も変わる機会になったと思います。
他に試した体操は何か?
(補足)ひざパタン
ひざパタン
固まった股関節をゆるめるために、仰向けに寝た状態で両足のひざを立て、そのまま左右に脱力して倒す動作をさせました。動作そのものは容易にできましたが、力を抜いて倒す・・時に、本当に力が抜けるか、が重要かつ難しいところです。
おばあちゃんには両手の親指と小指で自分の鎖骨を摘まませ、「はい、右~、はい、左~、」との声に合わせてやらせました。動作に伴って枕からずり落ちていくので、枕元に座っておばあちゃんの二の腕を引っ張るように支えていました。
手を交差しているのは、その方が摘まみ易いとのおばあちゃんの要望です。左の股関節が固くなっていたので、右側はパタンと倒せても左側はなかなか同じようにはいきませんでした。
(補足)組んだ脚を左右に
固くなった腰回りを緩めるため、片足を反対側の膝に掛けた状態でゆっくり左右に倒します。両手は横に広げて自分の上体を上向きに保たせながら、ゆっくり出来る範囲で動いてもらいました。
(補足)半球での足踏み
前述の勇崎賀雄氏の著書の中に、足の裏で踏みつける湧氣球(木製の球)が記載されています。おばあちゃんには半分に割った木製の球を代わりに置いて踏みつけてもらいました。両手はしっかり手擦りに掴まった状態で左右のかかとを挙げて足踏みする形で、足指の骨格をゆるませるためです。
(補足)GETALSでの歩行
履くのに慣れてから、GETALSのまま天井からの手擦りに沿って部屋の隅まで歩き、向きを変えて戻ってくる練習をしてもらいました。両手を前に上げた状態になりますが、真直ぐ前を向いて、交互にちゃんと膝を伸ばして体重を乗せる・・・ように声を掛けながら歩かせました。
(補足)おばあちゃんは病気だった?
まだ自分で歩けていた頃に、時々ふらつきを覚え、大きな病院の神経内科に通っていました。担当医の診断は脊髄小脳変性症でしたが、丁寧な説明、治療やリハビリの提案も皆無で、おばあちゃんはずっと不満でした。
家族が介護認定の手続きで診断書の作成を依頼しても明確な回答がありませんでした。そこで大学病院の神経内科にセカンドオピニオンを依頼したところ、正常圧水頭症では?と全く別の診断でした。
数日の入院・手術治療で症状が改善する可能性があると言われ、近くの病院で治療を受けましたが、殆ど状態は変わりませんでした。
本当は病気でも何でもなく、日常的に筋肉をゆるめる必要性を肝に銘じて少しでも実行していれば、普段通りに動けていただろう、と強く感じました。
具体的に体操させた内容と期間は?
実際には体操を始めてずっと調子が上向きになった訳ではなく、波がありました。ただ、徐々にですが、身体全体の異常な硬さが取れたのは間違いありません。手擦り伝いに歩いても身体の動きが全く違いました。一日当たりの体操の時間は、15-20分くらいでした。
歯医者の階段で負ぶろうとして脚の突っ張りに呆れたのが1月11日でした。何回か通院させましたが、5月7日には普通に負ぶわれて膝を預けるようになりました。カレンダーにメモ入れてますが、体調には波があり、4月1日は立っているのがやっとの状態でした。
おばあちゃんは口数が少なく、普段からあまり笑うこともなかったので、体操の時に如何にリラックスさせるか、が重要でした。少し暑い時はフリーザーからピノを一つ持ってきて口に入れたり、歯医者の階段で背に乗せたら腕で思い切りしがみつくので首が締まって死ぬかと思った・・などと冗談を言いながら体操させていました。
世の中は筋肉信仰が蔓延し筋力強化にばかり目が向けられますが、一番大切なのは筋肉をゆるめることです。
あなたがまだ現役でスポーツを続けられているなら、ここで紹介した本を読んでぜひ実践してみて下さい。必ずあなたの世界が変わります。 ご興味あれば「動ける身体を取り戻す」をご覧下さい。