おばあちゃんの状態
骨ストレッチとゆる体操を始めた時のおばあちゃんは、室内での移動は手摺り伝いに少しずつ、椅子での食事は箸を使って自分で、トイレは手摺りや補助台に掴まり何とか一人で、風呂は訪問看護士の介助で座ってシャワー、という具合でした。
体操は昼食前か、夕食前に、一人掛け用木製ソファーに座布団を置いた上に座らせ、手足の動きを確認するところから始めました。
身体が思い通りに動かせないことより、それに対しての危機感の無さに正直呆れました。体操させる際には、自分で出来ることはやらせる、痛みを伴う動きは絶対にさせない、時々冗談を言って笑わせる等、力を抜かせる工夫を取入れて進めました。
日常生活での工夫
おばあちゃんは認知症の兆しは殆ど無く、ゆる体操も少し知っていました。まずは日常の動きの中で姿勢を直すために、必要なところに手擦りを付けていきました。
手擦り代わりに少し開けた箪笥の引き出しを一段上にして、掴まる時に背中が伸びるようにしました。次に天井から手擦りを吊るし、片手は引き出し、反対の手は頭上の手擦りを使わせました。
行き帰りで持つ手が逆になりますので、背骨の側湾を直すのにも効果があったのでは?と思います。
(補足)指絞り
骨格リセットストレッチに記載の指絞りを自分で行わせました。左右の手の指をそれぞれ一本ずつ、胸の前で握ってから腕を前に伸ばして捻り、次に伸ばした状態で握り直して腕を曲げながら逆方向に捻る方法です。指さえきちんと握れれば簡単に捻ることが出来ます。
ひとりで食事は取れていましたが、指の動きもやや不安定でした。少しでも長く自分で自由に飲食できるよう、指周りの関節をゆるめておくことを狙ったものです。
足の指絞りもこの本に沿ってさせようとしましたが、手の指の力が弱く、姿勢も悪くなるので、代わりにGETALSという4本の鼻緒の付いた室内用の下駄を履かせ、体操させました。
GETALSはサイズ25室内用を購入。底に付けられた滑り止めが優れもので驚きました。右足の指は全て鼻緒に入りましたが、左足の指は固く、初めのうちはゴムハンマーで下駄の先を叩いて履かせてました。 GETALSはこちら
立つ時に重要な役割を果たす足指につながる筋肉を生活の中で自然にゆるめるために、このGETALSは極めて優れた履物と思います。
足首まわし(骨ストレッチ)
足首まわしをするために膝に足首を乗せようとしました。右足は左の膝に乗りました。左足は写真くらいしか上がりませんでした。
足首回しをする時は支える方の足の膝を内側に入れてはいけません。実際はこの悪い癖が左足にはついてしまっており、毎回足首と膝の位置を直していました。
おばあちゃんの場合、自分でくるぶしを押さえながら足首を回す動作は苦しかったので、代わりに私が行いました。他人に足首を回させると、加わる力が予測できないので足の力は抜けません。
そこで常に一定の速度で回転する、写真のマッサージ器をつま先に当てて足首を振動させ、徐々に力が抜けるように慣れさせました。
この足首まわし「骨ストレッチ」を一か月ほど続けたところ、左足は右足の膝の上に乗せられるようになりました。ただ、上体を前に倒させようとしても背中を丸めるだけなので、写真のように寝た姿勢で行う形に変えました。
仰向けに寝てももの後ろで両手を組んでお腹の方に引き寄せてもらい、私が左足のくるぶしを親指と小指で挟みつつ、右膝から外れないように保ちました。それと同時に左手に持ったマッサージ器を左足先に当てて振動させる、という具合です。
実際には態勢を整え、「はい、引っ張って~」と声を掛けると同時にマッサージ器をONにして足首に3-4秒間振動を与え、10-15秒ほど休む、それを3回繰り返しました。
(補足)ソファーから床へ
床に仰向けになるため、木製ソファーに座った状態から両手を床に突けて、徐々に体を前に出して四つん這いになる。四つん這いになったらクッションの場所まで移動して、身体を横に倒して仰向けに寝る。この動作が自分で出来るように、補助しながら練習させました。
最初の頃は床に手を突いても膝を床に降ろすのに一苦労、四つん這いから腰を床に着けて仰向けになろうとして必ずドシンと“落ちて”ました。毎日続けるうちに力の入れ具合、抜き具合の感覚が戻り、音を立てずに姿勢を変えられるようになりました。
何かひとつでも動作が出来るようになったら、必ず大袈裟に褒めました。動きがスムーズになるのは自分でも分かりますので、そこは本人も嬉しかったと思います。
(補足)四つん這いで体操
四つん這いの姿勢、腕、腿がそれぞれ垂直になった状態から、上半身を後ろに引かせました。左右の足のくるぶしの下を親指と小指で私が挟んで、マッサージをしながら、後ろに~、戻して~、と声を掛けながら少しでも可動範囲が広くなるよう動いてもらいました。
仰向けになる場所へ四つん這いで動くのは子供でも容易ですが、全くスムーズに移動できません。全身がリラックスしてる子供と違い、肩の力を抜く感覚を失って動けない状態でした。
(補足)仰向けで手首背伸び、肩伸ばし
肩関節周りの固まった筋肉をほぐすため「骨ストレッチ」記載の手首背伸びを仰向けでやらせました。横方向にも引っ張らせ、同時にマッサージ器を肩周りに当てて動作を助けました。
(補足)仰向けで肘、膝ぶつけ
最初は四つん這いの姿勢で、右手の肘と左足の膝をそれぞれ曲げてお腹の下でぶつけ、次に左手の肘と右足の膝・・と繰り返させるつもりでした。四つん這いの姿勢が安定しなかったので、代わりに仰向けの姿勢でやらせたものです。交互に5回ずつ計10回ぶつける動作をさせました。他の体操に比べると、これはリズミカルに動けました。
(補足)ひざコゾコゾ体操
高岡英夫氏の提唱する”寝ゆる黄金三点セット”体操のひとつ。立てた膝の上に、反対の足のふくらはぎを乗せて前後に緩やかに動かして筋肉をゆるめる動作です。これだけは補助なしでも出来ました。場所を少しずつ変えながら、力を抜いて動かすように常に声を掛けました。
(補足)すねプラプラ体操
これも”寝ゆる黄金三点セット”のひとつ。立てた膝の上に反対の足のすねを掛けてプラプラさせながら、すねの外側をほぐす体操です。これもひざコゾコゾと同じ要領で、一人ですることが出来ました。
腰モゾモゾ体操
これも”寝ゆる黄金三点セット”のひとつ。あちこちの関節が固まりかけてるおばあちゃんを如何に脱力させるか、が重要でした。
大きめのバスタオルを腰の下に通して持ち上げ、巻き寿司を作る要領で僅かに転がすように揺らす方法は気持ち良いと好評でした。暫くの間はこの”タオルで腰モゾモゾ”を続けましたが、補助する私が大変なので腰の下に入れる可動式の台(ゆるHELPER)を試作しました。
指先3本で取っ手を摘まみ、感覚的には約5mm往復させるだけで思い通りの”寝ゆる”が可能になりました。この進化型としてGETALSを履かせた片足を反対側の膝上に乗せ、組んだ足が外れないよう爪先を支えながらの”寝ゆる”を運動の仕上げに行いました。
この(ゆるHELPER)を使えば揺りかごに似た動きも自在になり、眠気を誘えば力も自然に抜けて「ゆる」の効果も倍増することが期待されます。
(補足)仰向けから立ち上がり
寝ゆる体操が終わった後は腰を乗せていたゆるHELPERを取り除き、自分で元の木製ソファーに戻る練習をさせました。
仰向けに寝た姿勢から身体を捻って俯せに、肘と膝を使って四つん這いに、そのままソファーの前に進み、座面によじ登るように上体を起こし、足を引付けて膝を立て、ソファーの肘掛けと座面に掴まりながら立ち上がり、最後に身体の向きを変えて座る、という流れです。
最初は仰向けから俯せになることも無理でした。毎日体操を続けるうちに身体を動かす感覚が目に見えて回復してきました。履くのに慣れてからは、GETALSのままこの練習をさせました。床暖房+絨毯の居間では裸足よりもGETALSの方が滑らず、足指への良い刺激にもなったと思います。
数ヶ月後には、仰向けでゆるHELPERを除いてから「はい、後は自分で立ち上がってね~」と声を掛け台所でちょっと野菜を刻んでるうちに、もうソファーに掴まって立ってる!くらい進歩しました。
ひとりで歩けた!
体操を始めて2-3ケ月くらい後に、手擦り伝いに部屋を移動中、突然、居間の反対側にあるソファーまで歩けるような気がする、と呟いてそのまま本当に歩くことが出来ました。
ほんの5,6歩ですが、杖も手擦りも無しで歩きました。一連の体操を始めた頃の、見るからに力が入りすぎた状態とは打って変わって、硬さが取れて自然な動きの感覚が戻った瞬間でした。
(補足)後付けの理屈?
加齢や運動不足により筋肉は少しずつ柔軟性を失って固くなっていきます。若い頃に運動しても止めてしまえば同じことで、むしろ使った分だけ固くなる速度が増すのではないかと思います。
運動した後で殆どの人が整理体操やマッサージ等の筋肉のケアを全くしないのが原因なのでは、と思います。筋肉が徐々に固くなり、身体が動かなくなるイメージ図を作成しました。
関節周りの筋肉が固くなれば当然関節の動く範囲も狭まります。ふだん身体を動かさない人は筋肉が固くなっていることに気付く機会もないまま、日常生活で必要な10%の可動範囲まで固くなると、ある日突然つまづいて転ぶ・・・ことになるのでは?
骨ストレッチやゆる体操の書籍に対するコメントで、全く効果が感じられないと書く人の大部分は運動を殆どすることもない方でしょう。日常生活だけでしか身体を動かしていなければ、効果を感じるはずもありません。
骨ストレッチとゆる体操が必要なのは・・
骨ストレッチとゆる体操はどちらも、身体を如何に思い通りに動かしてスポーツを極めるか、が発想の出発点であったかと。
ただ、世の中で身体をゆるませることが一番必要とされているのはここに記したようなおばあちゃんでしょう。その手助けが出来るのはスポーツ好きなあなたしかいません。
スポーツ好きなあなた、まずは「骨ストレッチ」と「ゆる」体操をあなた自身で試してみて下さい。そして、おばあちゃんの身体をゆるめてあげて下さい。これまでの経緯、質問・回答は動ける身体を取り戻す おばあちゃん編(3)へ。